ログインユウは、その愛らしい容姿と、誰に対しても分け隔てなく接する朗らかな性格、そしてクラリスによって鍛えられた振る舞いのおかげで、すぐに町の子供たちの間に溶け込んだ。初めて来たにも関わらず、彼はわずか一日で彼らの輪の中心へと入っていった。
ユウは、木の枝で作った剣を軽やかに振り回し、冒険者ごっこに興じていた。遊びの中では、自分よりも小さな、町の年下の子どもたちが転びそうになれば、すぐに手を差し伸べて助け起こし、優しく泥を払ってやるなど、面倒見の良さを発揮した。
また、ユウと同じくらいの歳の、少し生意気そうな商家の息子たちともすぐに打ち解けた。彼らはユウの活発な動きや、想像力豊かな遊び方に魅了され、皆がユウの立てる冒険の筋書きに夢中になった。ユウの周りには、いつも笑い声が絶えなかった。
ユウは、クラリスがいなくなった寂しさを一瞬忘れ、町の広場の明るい陽光の下で、新しい友達と童心に帰って駆け回っていた。その顔には、久しぶりに心からの活力が満ちていた。
そんな賑やかなある日、ユウがいつものように町の子供たちと冒険者ごっこに興じていると、見慣れない一人の女の子が、仲間に入りたいと願うような眼差しで、その様子を遠巻きに眺めていた。
石畳の広場には、子どもたちの快活な笑い声が弾けるように響き渡っている。その歓喜の輪から少し離れた場所に、その少女はぽつんと立っていた。
彼女の淡い金髪は、午後の風にふわりと揺れ、柔らかな陽の光を浴びて、まるで絹糸のように優しく輝いていた。肩のあたりで軽く跳ねたサラサラのセミロングヘアが、彼女の可憐な顔立ちを縁取っている。透き通るような青い瞳が、広場で遊ぶユウたちを、じっと、しかし遠慮がちに、見つめ続けていた。
その少女の服装は、動きやすさを意識したかのような冒険者風であった。しかし、短いスカートの裾には、品の良さを感じさせる可愛らしいフリルが丁寧に縫い付けられており、全体から彼女の育ちの良さが滲み出ていた。
彼女は、小さな両手を胸元でぎゅっと握りしめており、履いている綺麗な靴のつま先で、石畳の地面をちょん、ちょんと遠慮がちに突いている。その控えめな仕草は、遊びの輪に入りたい気持ちと、声をかける勇気が出ないという、小さな葛藤をはっきりと物語っていた。
「……楽しそう」
石畳の広場に弾ける子どもたちの歓声にかき消され、誰の耳にも届かないほどの微かな声で、少女はぽつりと胸の内を零した。
その瞬間、ユウがふと顔を上げ、広場の端に佇む彼女の姿に気がついた。見知らぬ子だ。町の裕福な子どもたちの中でも、どこか少し雰囲気が違うように見える。しかし、ユウはそこに特別な理由があるとは考えなかった。
彼はまだ知らなかった。この金髪の少女が、単なる一人の“可愛い子”ではないこと。そして、彼女との出会いこそが、彼の未来の運命を大きく、不可逆的に変えていくことになるということを――。
ユウが近くにいた友達に「あの金髪の子、誰だ?」と尋ねると、友達は顔を顰めて答えた。
「あれ、どっかのデカい商家の娘だろ。すげーわがままで、遊んでも文句ばっかり言ってきて面倒くさいし……関わらない方が良いぞ。ホントに面倒なんだからな……」
そう忠告されたが、ユウは逆に興味を引かれ、黙って頷いた。そして、一人で佇む少女に向かって歩き出した。
(クラリスという、この世に二人といないほどのわがままな女の子で鍛えられた俺だ。わがままな女の子の相手には慣れているし……。それに、彼女の不安そうな仕草を見ていれば分かるだろ。わざわざ遊んでいる広場まで来ているのに、一緒に遊びたくない訳がないんだ)
ユウは、そう内心で確信すると、柔らかな笑顔を顔に浮かべ、迷うことなく少女の元へと近づいていった。
「なぁ、良かったら一緒に遊ぶか?」
ユウは、屈託のない笑顔を浮かべながら、少女に優しく声をかけた。
「は? なにを言ってんのかしら……この、わたしに……気安く声を掛けないでよね! ふんっ」
少女は、驚いたように透き通る青い瞳をわずかに見開いた後、すぐにムスッとした不機嫌そうな顔を作り、ユウから顔を背けた。しかし、その耳はユウの声を聞き逃すまいと立ち、時折、不安そうな表情でユウの様子をチラチラと伺っていた。
ユウは、その様子を見て、内心でホッと安堵のため息をついた。
(よし。やっぱり予想通りだ。この感じ、クラリスとそっくりじゃないか。ちょっと強引に誘った方が良いかもな……きっと怒る素振りをすると思うけど、その反応で心を開くきっかけになるはずだ。それから徐々に仲良くなれば良いだろ)
「まあ、いきなり大勢の中じゃ緊張もするか……こっち来いよ」
ユウは、そう言うと、少女の小さな手を迷いなく掴んだ。少女の肌は、触れた瞬間にピクリと震えた。ユウはそのまま、彼女を広場の隅にある日陰へと連れて行き、石畳の端に並んで腰を下ろした。
「そうだ、カイル! その自慢の弓矢の腕をユウくんに見せてあげれば良いんじゃないっ☆ もっと褒めてくれると思うよっ」 リリは、ユウへの独占欲から一転、ユウとカイの仲を取り持つように促した。 リリの言うことに、まだまだ褒め足りなそうなカイルが反応した。「おぉー! んふふーっ♪ だよな、仲間に俺の技量を見せておかないとなー」 カイルは、嬉しそうに声を上げ、自慢の弓矢の腕前を見せることに乗り気になった。「ただの年下って思われててもイヤだしな」 カイルは、そう言って、ユウに自分の実力を認めさせたいという、若者らしい意欲を覗かせた。「面白そうだ! 俺、村で的あてをやらせてもらったことがあるくらいだし。猟師の人の狩も見たことないし……興味ある」 ユウは、カイルの提案に目を輝かせた。彼にとって、弓矢の技術は未知の領域であり、純粋な興味が湧いた。「おっ、ユウ兄……弓に、興味あるのかぁ……そりゃ嬉しいな。俺の腕前を見て、おどろけー!」 カイルは、ユウの興味を引けたことが心底嬉しそうで、満面の笑みを浮かべた。彼は、小柄で、エルフの血が混ざっているのか耳がツンと尖っており、光に反射して金髪のサラサラの髪の毛を揺らした。そのグリーン色の瞳を輝かせて、ユウに自信たっぷりにそう言った。 ユウは、まだ自分の袖を掴んでいるリリを見て、感謝の気持ちを込めて微笑みながら言った。「リリ、ありがとなー。カイと仲良くなれそうだ」 その言葉に、リリの頬は緩んだ。「わぁっ。えへへ~♪ リーダーとして当然でーすっ☆」 リリは、そう言いながら、さらにユウの腕に抱きつき、得意げな表情を見せた。「それに、ユウくん……警戒心の強いカイに、すんなりと気に入られてたし。すごいねぇ」 リリは、ユウの順応性の高さに感心していた。「カイはエルフの血が混ざってるから結構、警戒心が強いんだよー」 リリは、秘密を教えるように
たとえユウに「仲の良い男友達」などと思われては、リリは気分が良くなかった。仲の良い異性がいるとは思われなくなかった。その勢いのある否定を聞いたカイが、困惑した声をあげた。「な、なんだよー! そこまで否定をしなくてもーだろ! たとえ事実だとしても、ちょっとショックだぞ……俺!」 カイの言葉に、リリはさらに顔を赤くし、ユウの胸に顔を埋めた。「ユウくんのイジワルー。そんなに仲の良い、男の子なんていないもんっ! ふんっ」 リリは、ユウの胸に顔を埋めたまま、恨めしそうにくぐもった声を上げた。その拗ねた様子は、ユウに抱きつきながらも、可愛らしくふてくされているように見えた。 リリとユウのやり取りを聞いていたカイは、驚きを隠せずに首を傾げた。「へぇ……リリが、変だぞ……完全に新人を意識してる感じじゃんかーっていうか、リリが男の人の腕に抱きついてるの初めて見たぞ。すげーな……新人君は」 カイは、リリが他の男性に抱きついているという、かつて見たことのない光景に、純粋な感嘆の声を上げた。 その言葉でユウが反応して、カイに視線を向けた。「パーティの仲間って、『バルキリー』の……おぉ!先輩か……」 ユウは、リリの腕から離れ、初めて顔を合わせるカイに挨拶をした。「えっと、俺はユウです……」「えーっと……俺はカイルで、多分一番年下で武器は弓矢で中、長距離攻撃が得意で近接戦闘だと無力なんでよろしくなーユウ兄!」 カイは、ユウが『バルキリー』の新メンバーだと理解すると、すぐに笑顔を見せ、親しみを込めて「ユウ兄」と呼んだ。その物腰は軽やかで、彼がパーティの中でムードメーカー的な存在であること伺わせた。「へぇ……弓矢かー俺は才能ないんだよなぁ。羨ましいや」 ユウは、素直にカイの持つ弓術の才能を褒めた。自身が遠距
「Aランクの『バルキリー』のリリア様では……!?」 店主の口から、驚愕と畏敬の念が入り混じった声が漏れた。リリアという名、そしてAランクという事実に、彼の冷ややかな態度は一瞬で崩れ去った。「うん、うん、そうだよっ☆」 リリは、店主の驚愕に満ちた表情を見て、得意げに胸を張った。「『バルキリー』のパーティの新メンバーなんだぁー! ちゃんと覚えてねっ」 リリは、そう言ってユウの腕にさらに抱きつき、ユウを庇護下に置いていることを誇示するように微笑んだ。 しかし、店主はリリの言っていることが全く理解できなかった。(……は? Aランクのパーティが、新人で低級の冒険者をパーティへ迎え入れるのか!?) 店主の頭の中は、冒険者としての常識に反する事態で混乱していた。(明らかに足手まといで邪魔だろ。低級の冒険者なんて……いない方が、守る労力が減って効率が良いだろ……。荷物持ちとして……か? だったらパーティとしてではなく、サポーターを雇えばいいだけの話だろ。安く済むし、サポーターとしての経験のあるベテランもいるだろうに……) 店主は、Aランクパーティの行動原理に全く合致しないリリの言葉を、信じることができなかった。彼の思考は、冒険者としての効率と常識に縛られていた。 店主は、リリの言葉が冒険者としての常識からかけ離れていることに戸惑いはしたが、それ以上、詮索はしなかった。理解できなくても、最上級の冒険者である『バルキリー』のリーダーであるリリアに嫌われでもしたら、冒険者相手に商売をしている武器屋としては死活問題になってくるからだ。 当然、文句も意見もできなかった。彼女が必要と言えば、その剣を差し出すしかなかった。別に損をする訳でもないのだから。「そ、そうだったのですか……それは、失礼なことを言ってしまいましたな」 店主は、態度を一変させ、それまでの冷ややかな表情を消し
「えっとね、武器って……お金がないからって、ケチって安いもので考える人が多いけど。でも、武器で戦って魔物を討伐をするんだよ」 リリは、金貨二枚という値札を見て戸惑うユウの心を見透かしたように、真剣な表情で語り始めた。彼女は、冒険者として戦場に立つことの厳しさを知っていた。「安く済ませて、中古とか品質や弱い素材を使ってる武器で戦闘中に武器が折れたら、ケチっただけで実力があるのにも関わらずに命落とすこともあるんだよ……豪華な飾りとか付いて高い物は必要ないけどねぇ」 リリは、ユウの命を守るためだという強い思いを込めて、そう諭した。彼女の言葉は、単に高価なものを勧めているのではなく、武器の品質が命に直結するという、冒険者としての現実を伝えていた。ユウは、リリの真剣な眼差しから、その言葉の重みを感じ取った。 ユウは、リリが選んだ剣から放たれる淡い青白いオーラと、彼女の命を案じる真剣な言葉を聞き、深く頷いた。金貨二枚という金額は重かったが、リリの言う通り、武器の品質が命を分けることは明白だった。「わかった。じゃあ、これにするよ」 ユウが購入を決断すると、リリの表情が一気に輝いた。彼女の瞳は、ユウが自分の言葉を信じ、自分の助言を受け入れたという事実で潤んでいた。(ユウくんが、わたしの言葉を信じてくれた!) リリは、ユウから深く信用されていると実感し、胸の中に温かい嬉しさが込み上げてきた。同時に、この剣がユウの命を守る重要な道具となることに、身が引き締まるような責任感を感じていた。「うんっ! ありがと、ユウくん! 絶対に後悔させないよっ☆」 リリは、そう言ってユウの腕に抱きつき、満面の笑みを浮かべた。 店の店主は、二人の若いカップルが神聖なる武器屋の店の中で、いちゃいちゃと騒いでいるのが気に食わなかった。店主は、仏頂面で腕を組み、冷ややかな目線で二人を見つめていた。 そんな店主の視線を感じながらも、初めての高額な買い物で緊張をした声で、ユウが声を掛けた。「あの……ちょっと良いですか? あの
ユウは正直、ワイルドボアの数を数えたことなどなかった。彼の収納は、時間経過による腐敗がないため、単に非常食としてストックしているような感覚でいた。リーナと出会ってから、徐々に討伐方法を吸収し、リーナに会えなくなってからは、収納ができるようになったこともあり、ほぼ毎日討伐をしては収納を繰り返していた。(この言い方は、なんとなく……正直に言うとリリに、引かれる気がするな……) ユウは、リリの瞳に映る自分の顔を見ながら、内心でそう思った。リリの知っている3頭だけでも驚かれているのに、正直な数を言えば、彼女をドン引きさせてしまうのではないかという不安があった。(10頭? 6頭にしておくか……。実際は、30頭以上あると思うけど) ユウは、自分の収納の正確な量を悟られないように、リリの知っている数に少しだけ上乗せした数を答えることにした。「んー……6頭くらいかな……」 ユウは、リリの目を見ながら、控えめな数字を口にした。「ふうん……もっとあるんじゃないのかなぁ……? あの調子で討伐していたらさぁ!?」 リリは、ユウの腕に抱きつきながら、信じていないというようにジト目で見つめてきた。その視線に、ユウはたじろいだ。「ま、まあ……う、うん。そ、そうだよね……多分、15頭くらいかな」 ユウは、さらに数字を上乗せし、正直なところから遠ざけようとした。「や、やっぱりぃ……ふっふーん♪ だよね、だよねー」 リリは、ユウの正直さに満足したように、得意げに鼻を鳴らし、ユウの腕に顔を擦り付けた。「だよね、だよね~! やっぱりぃーわたしのユウくんは、すごぉーい♪」 リリは、誇らしげにユウの腕に抱きつきながら、目を輝かせた。「簡単にユウくんは討伐してるけど。実は、結構ね&hellip
ユウとリリが町へ着くと、二人は冒険に備えて、パーティの活動資金で食材の買い出しを始めた。 リリは、カゴいっぱいの野菜や肉、保存食をユウの前に差し出す。「これ、お願いユウくん!」「はいよ」 ユウがそれらを手に取り、彼の特別な収納へと次々に仕舞い込んでいく。ユウの収納は、リリや他のパーティメンバーが持つ空間拡張された収納とは異なり、容量や重さを一切気にせずに収納ができる。リリたちの収納は容量に限りがあり、日用品や防具、武器やテント、着替えなども収納しているため、一度に大量の食材を買い揃えるのは難しかった。 しかし、ユウの様子を見て、リリは改めてその能力の凄さを実感していた。 数日の間、ユウと行動を共にしていたリリは、ユウがワイルドボアのような大型の獣を討伐した際も、容量を気にせずに何頭もの獣を収納し、他にも食料品に衣類やら、次々と大量のアイテムを収納していることに気付いていた。リリは、自分の収納の容量を遥かに超えるその収納能力を、横目でチラリと見ていた。「ユウくん、他の食料品も収納をお願いしても良いかなぁ?わたしの収納……容量が厳しくて……」 リリは、買い物かごに山積みになったパンや調味料を指さし、少し申し訳なさそうにユウに頼んだ。「うん。問題ないよ!まだまだ余裕はあると思うから収納は、任せて」 ユウは笑顔でそう答え、リリが差し出す大量の食料品を次々と収納していった。その手際の良い作業に、リリは改めてユウの収納能力の優秀さを感じていた。「えっと……獣の肉がいっぱい討伐をしてたけど……一頭は、パーティのみんなで食べる用にしちゃっても良いかな?他は売る感じだよね?」 リリは、ユウの収納に入っている大量の獣の肉を思い出し、尋ねた。(獣の肉は売れるんだ? 自分で食べるように収納をしていたけど……) ユウは、初めて冒険者として本格的に活動するため、獣の肉が換金アイテムになるという認識が薄かった。しかし、リリの言葉で