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8話 広場の隅に佇む金髪の少女

作者: みみっく
last update 公開日: 2025-12-10 14:08:58

 ユウは、その愛らしい容姿と、誰に対しても分け隔てなく接する朗らかな性格、そしてクラリスによって鍛えられた振る舞いのおかげで、すぐに町の子供たちの間に溶け込んだ。初めて来たにも関わらず、彼はわずか一日で彼らの輪の中心へと入っていった。

 ユウは、木の枝で作った剣を軽やかに振り回し、冒険者ごっこに興じていた。遊びの中では、自分よりも小さな、町の年下の子どもたちが転びそうになれば、すぐに手を差し伸べて助け起こし、優しく泥を払ってやるなど、面倒見の良さを発揮した。

 また、ユウと同じくらいの歳の、少し生意気そうな商家の息子たちともすぐに打ち解けた。彼らはユウの活発な動きや、想像力豊かな遊び方に魅了され、皆がユウの立てる冒険の筋書きに夢中になった。ユウの周りには、いつも笑い声が絶えなかった。

 ユウは、クラリスがいなくなった寂しさを一瞬忘れ、町の広場の明るい陽光の下で、新しい友達と童心に帰って駆け回っていた。その顔には、久しぶりに心からの活力が満ちていた。

 そんな賑やかなある日、ユウがいつものように町の子供たちと冒険者ごっこに興じていると、見慣れない一人の女の子が、仲間に入りたいと願うような眼差しで、その様子を遠巻きに眺めていた。

 石畳の広場には、子どもたちの快活な笑い声が弾けるように響き渡っている。その歓喜の輪から少し離れた場所に、その少女はぽつんと立っていた。

 彼女の淡い金髪は、午後の風にふわりと揺れ、柔らかな陽の光を浴びて、まるで絹糸のように優しく輝いていた。肩のあたりで軽く跳ねたサラサラのセミロングヘアが、彼女の可憐な顔立ちを縁取っている。透き通るような青い瞳が、広場で遊ぶユウたちを、じっと、しかし遠慮がちに、見つめ続けていた。

 その少女の服装は、動きやすさを意識したかのような冒険者風であった。しかし、短いスカートの裾には、品の良さを感じさせる可愛らしいフリルが丁寧に縫い付けられており、全体から彼女の育ちの良さが滲み出ていた。

 彼女は、小さな両手を胸元でぎゅっと握りしめており、履いている綺麗な靴のつま先で、石畳の地面をちょん、ちょんと遠慮がちに突いている。その控えめな仕草は、遊びの輪に入りたい気持ちと、声をかける勇気が出ないという、小さな葛藤をはっきりと物語っていた。

「……楽しそう」

 石畳の広場に弾ける子どもたちの歓声にかき消され、誰の耳にも届かないほどの微かな声で、少女はぽつりと胸の内を零した。

 その瞬間、ユウがふと顔を上げ、広場の端に佇む彼女の姿に気がついた。見知らぬ子だ。町の裕福な子どもたちの中でも、どこか少し雰囲気が違うように見える。しかし、ユウはそこに特別な理由があるとは考えなかった。

 彼はまだ知らなかった。この金髪の少女が、単なる一人の“可愛い子”ではないこと。そして、彼女との出会いこそが、彼の未来の運命を大きく、不可逆的に変えていくことになるということを――。

 ユウが近くにいた友達に「あの金髪の子、誰だ?」と尋ねると、友達は顔を顰めて答えた。

「あれ、どっかのデカい商家の娘だろ。すげーわがままで、遊んでも文句ばっかり言ってきて面倒くさいし……関わらない方が良いぞ。ホントに面倒なんだからな……」

 そう忠告されたが、ユウは逆に興味を引かれ、黙って頷いた。そして、一人で佇む少女に向かって歩き出した。

(クラリスという、この世に二人といないほどのわがままな女の子で鍛えられた俺だ。わがままな女の子の相手には慣れているし……。それに、彼女の不安そうな仕草を見ていれば分かるだろ。わざわざ遊んでいる広場まで来ているのに、一緒に遊びたくない訳がないんだ)

 ユウは、そう内心で確信すると、柔らかな笑顔を顔に浮かべ、迷うことなく少女の元へと近づいていった。

「なぁ、良かったら一緒に遊ぶか?」

 ユウは、屈託のない笑顔を浮かべながら、少女に優しく声をかけた。

「は? なにを言ってんのかしら……この、わたしに……気安く声を掛けないでよね! ふんっ」

 少女は、驚いたように透き通る青い瞳をわずかに見開いた後、すぐにムスッとした不機嫌そうな顔を作り、ユウから顔を背けた。しかし、その耳はユウの声を聞き逃すまいと立ち、時折、不安そうな表情でユウの様子をチラチラと伺っていた。

 ユウは、その様子を見て、内心でホッと安堵のため息をついた。

(よし。やっぱり予想通りだ。この感じ、クラリスとそっくりじゃないか。ちょっと強引に誘った方が良いかもな……きっと怒る素振りをすると思うけど、その反応で心を開くきっかけになるはずだ。それから徐々に仲良くなれば良いだろ)

「まあ、いきなり大勢の中じゃ緊張もするか……こっち来いよ」

 ユウは、そう言うと、少女の小さな手を迷いなく掴んだ。少女の肌は、触れた瞬間にピクリと震えた。ユウはそのまま、彼女を広場の隅にある日陰へと連れて行き、石畳の端に並んで腰を下ろした。

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